Volunteacher:大学生講師のブログ

教育系ボランティアで教師をしている大学生のブログです。教育に関する話題や、趣味の話題がメインです。

道徳教育って本当に必要なのか(教材を踏まえて)その2

 プルガです。

 

 先週「星野君の二塁打」について解説・考察をしましたが、今回はその続きです早速考察から入るので、どんな内容だったか忘れてしまった方は、その1をご覧ください。

 

・監督の評価は正しかったか。


 監督の試合後の評価の問題に移りましょう。試合後、監督は星野君を出場停止の制裁を加えるのですが、私が思うに、これは最もやってはいけない部類の評価であると思います。


 まず、星野君自身についてです。彼は自分が打ちたいからという理由で、確かにチームの連携を乱す行為をした可能性があると言えます。それについては、野球は団体競技ですからチームメイトとの連携を考えるよう、しっかり注意する必要があります。

 

 しかし、彼自身「チームを負けさせよう」という悪意がある訳ではありません。あくまでチームの勝利を目指すという考え方を持っています。その中でバントをするよりは自分がヒットを打った方が勝利につながるという善意の考え方なのです。もし彼がもともとヒットを打つ打者でなければ批判しても仕方がないかもしれませんが、彼は自分の職務を果たそうとしていたわけです。しかもそれによって彼は結果を出すことが出来ました。それについてはチームメイトと同様に賞賛してしかるべきです。例えば、


 「星野、お前が焦っていたのもわかるが、指示には従ってくれなければ困る。野球はチーム戦だから、連携を崩すことは命取りにもなるかもしれないからな。次からは気を付けてくれ。だが、ヒットを打ってチームを救ってくれたのは感謝したい。お前のヒットのおかげで全国大会に出場できたのだからな。次から俺も星野の力をもっと信じるよ。」


程度に言えば十分だと思います。


 しかし監督は一方的に星野君のプレイに対して否定しかせずに、挙句の果てに彼が試合に出場する権利を奪っているわけですよね。善意で頑張ったことに対して報酬を与えない、これは子供が「自分がどんなに頑張っても意味ないんだ」と認識してしまうため教育としては最悪です。「スポーツは理不尽なこともあるから頑張っても無駄なことが多い」ということを子供に教え込むつもりなら話は別ですが。


 しかも、監督がここまで重い制裁をする理由が謎です。チームメイトも星野君のプレイを良く思っておらず、激しく非難しているのなら、チームメイトの軋轢を防ぐための措置として行う可能性があるかもしれません。しかし、ランナーだった山本君ですら、


「だけど、先生、二壘打をぶつぱなしてR中学をすくつたんですから――。」


 と、非難するどころかヒッティングに出た星野君を支持しているのです(本当は監督が言うべき発言なのですがね、これ…)。塁に出ている山本君がこれほど支持しているのですし、監督の屁理屈にチームメンバーが頭を深く垂れたとあるので、多分星野君をチームメンバーはして支持していたのだと考えられます。つまりあのヒットを良く思っていないのは監督だけなのです。
 
 野球に関して深い知識がないのでよくわからないのですが、確かに監督の指示は大切です。しかし、送りバントをしても1つアウトカウントがとられた状態で2塁のランナーを帰塁させなければならない(しかも山本君は足が遅い)のですから、残塁して攻撃が終わる可能性も十分にあります。そもそもバントに失敗することすらあり得ます。監督の指示が確実とは限らないのです。


 監督の指示が確実でないのならどちらが確実かを考えるのは、星野君です。なぜなら星野君は現場の人間なのですから。しかも自分を信じた星野君は結果を出したのですから、むしろ監督が自分の采配が間違っていたと認識しなければなりません。


 結局、この監督はどんな屁理屈を並べてもセリフ通り、「自分の指示に従わずに結果を出した星野君が気に入らない」のです。もっと言えば「俺の出番を奪いやがって!」ということなのではないでしょうか。だから子供を押さえつけるべく、「俺の指示に従わないやつはこうなるんだ」という見せしめで星野君に厳しい制裁を下しているのでしょう。まるで動物の調教です。が、日本の組織ではよくある構図にも思われます。


 それにしてもひどい理屈ですよね。私はこの監督に「あなたに犠牲の精神がないのでは?」と質問したくなります。


 ただ、こういう大人ってよくいるんですよね。都合のいいときは自分の手柄にして都合が悪いときは他人を蹴落とすような人を、私の場合は高校時代の顧問がこんな感じの性格だったかなと思います。自分もそうならないように気を付けなければ……あれ、これって監督を反面教師にする教材でしたっけ?


 ・設問は適切か。


 最後に教材に掲載されている設問について言及していきます。せっかくなので、皆さんも解答できるか考えて頂きたいと思います。

 

 まず、一問目、

 
 「うつむいたまま動かなくなった星野君は、どんなことを考えていたのでしょう。」
※星野君は監督から出場禁止を言い渡された後、他のメンバーが顔を上げる中、1人だけ俯いたままになります。


 出ました。自分とは関係ない赤の他人の気持ちを考えさせる、日本の道徳あるある問題です。毎回思うのですが、問題文が良くありませんね。これでは答えがあるかのように錯覚してしまいます。そんなの星野君と、これを書いた作者にしかわかりません。しかも登場人物の細かな心理描写もないので自分を完全に投影することもできないのです。こんなの当たり障りのなさそうな答えを言って終わりです。これほどつまらない問題はありません。正直私は解答欄に「知らねーよ」と書きたくなりますがね。


 ただ、本当にひどい設問はこの後にあります。二問目がこちら。


「うつむいている星野君にあなたが声をかけるとしたら何と言いますか。」


 いやいや、そんな状態の人に声をかける人いないでしょう。この設問作成者に「お前はなんて言うんだよ!?」と私は言いたいです。問題作成者の言う“あなた”がチームメイトとしてなのかただの傍観者としてなのかがわかりませんが、いずれも何を言っても同じです。「お前に俺の何がわかるんだ!」と返されれば何も言えなくなります


 チームメイトは星野君が出場できないのに、出場するでしょうし、傍観者はそもそもチームと関係ない人物なのですから、星野君の気持ちを完全に理解できる人間なんていません。だから星野君に先述の発言をされるとかける言葉が無くなるのです。しかも理不尽な制裁の件で「頑張ったのに、報われない」という風に感じているでしょうから(むしろそう感じなければおかしいのですが)、尚更星野君からそのように言われる可能性が高いです。こんな状態の星野君を言葉で立ち直らせるのは不可能です。


 何を言っても無駄なのはわかっているので、真剣に回答する気すら湧きません。なのでとりあえず私は「m9(^Д^)プギャーwww」という言葉を解答欄に書いておきます(笑)。


 最後に3問目、すでに物語に関する設問がおかしいのに今度は明後日の方向に話題が飛躍します


 「誰もがきまりを守らず、義務を果たさなかったら、どんな世の中になるのでしょう。」


 どうやらこの問題作成者はどんな手を使ってでも星野君を悪者にしたいようですね。まず“決まりを守らず”の部分ですが、先述の通り、作中の状況下では、最終判断を下すのはプレイしている選手です。監督の言葉は助言にはなりますが、即座に決定事項になるわけではありません。もちろん、監督の指示に従わないことは野球のルールに反しているわけでもありません。


 次に“義務を果たさなかった”という項目ですが、これも明らかに違います。チームメンバーの義務は「勝つために頑張る」ということです。星野君は義務を果たしていますし、しかも成果まで上げているのです。そういう人間を批判することは、先述の通り教育としては最悪の方法です。


 この段階ですでに設問の作成者が文章内容をまともに読解出来ていないのが分かりますが、その後の問いに「どんな世の中になるでしょう」という問い。子供に対する説教でもないのにそんなありえない世界の話をしてどうなるのでしょうか?そうなった場合は決まってます。北○の拳さながらの物理的な力が物を言う世紀末世界です。話の飛躍ぶりが凄すぎて、怒りとかを通り越して笑えてきます。まともに考える気にもなりません。答えは「世界は核の炎に包まれた」、これで決まりです。
 
 
 文章も自主性、主体性をつぶすような文章ですし、設問も質が良くないので教材として本当にこれを教科書に乗せていいものか、私はとても疑問におもいますね。
 

・おわりに

 このように教材としても話の内容がよくない部類のものであるにも関わらず、設問ですら突っ込みどころ満載の状態です。一体こんなもので何を評価すればいいのか、先生も困っていると思われます。教材の質が良くなければ、教材研究のためにより多くの時間がとられてしまいます。しかし、部活や自分の科目の教材研究で特に中学の教員は道徳の教材研究をしている時間はありません。文章がこれではいくら研究しても面白い授業を作るのは難しいです。


 子供は自主性や努力をすることが馬鹿らしく感じる、教員は教材研究に時間をとられて疲弊する。生徒も教員も得をしない、現状の道徳の教科化にはそんな印象があります」。