Volunteacher:大学生講師のブログ

教育系ボランティアで教師をしている大学生のブログです。教育に関する話題や、趣味の話題がメインです。

レビュー:みんなの道徳解体新書(ちくもプリマ―新書)

 プルガです。
 
 今回の記事では本のレビューを書いてみたいと思います。というのも私の道徳観でも大いに参考にしている本で、非常に読んでいて興味深いと感じた本であると感じたためです。
 
 こちらの本です。
 
 
みんなの道徳解体新書 (ちくまプリマー新書)
パオロ マッツァリーノ
筑摩書房
売り上げランキング: 7,764
 この本は既に表紙から普通の道徳の理論書とは異なる点があります。まずは筆者の名前です。この本はイタリア人を彷彿とさせる名前で、海外の高度な専門書感を演出していますが、これはあくまでペンネームであり、作者は日本人です(詳細不明ですが、ネット上に正体に関する情報が掲載されています。)。ちなみに筆者の出身大学はイタリアン大学だそうです。もう既に怪しさ満点です。

 また、タイトル的には高度な専門書を感じさせますが、裏表紙にあるあらすじを見ると、このように書かれています。

 

日本人の道徳心は本当に低下しているの?

小中学校での道徳教科必修化の前に

道徳の仕組みをくわしく勉強してみよう!

学校では教えてくれない、道徳の「なぜ?」が分かります。

                          本書背表紙より

 

 難しい本にありがちな「である調」どころか「緩いですます調」で書かれており、俗な感じに仕上がっています。

 

 この本は簡単に言えば、「現代の道徳」と「道徳の歴史」を通じて現代の道徳教育に留まらずもっと根本的な教育概念にまでメスを入れる、というようなものです。

 

「どうせ道徳教育とかで難しい倫理学の話とかのせるんでしょ?」

 

 このようなことは一切ありません。具体例等も現実に即しており、シンプルでわかりやすいです。この本を勧めてくださった先生は「高校生の課題図書になっているから読みやすい」とおっしゃっていましたが、個人的には中学生でも十分いけるレベルだと思います。そのぐらいさくさく読み進められますね。早い人なら2、3時間で読み終わると思います。

 

概略はここまでに、本書の魅力を本文から内容を少し引用しつつ、説明したいと思います。

 

・キレイごと一切なし!ストレートすぎるツッコミ
 
 本書では見栄えの良くなるような言葉は使われていません。教壇に立つ先生では間違いなく言えないようなストレートかつ非常に的を射ているツッコミがとても痛快で、物によっては笑えます。
 
 本書の第三章で出てくる「道徳副読本傑作選」。ここでは道徳のいわゆる「読み物資料に」焦点を当て、その中でも問題作を解説する章です。複数の題材を挙げているので、一つ一つのあらすじ・解説は短いですが、非常に的確な指摘が飛んできます。
 
例えば、本書P40をみると、
 「ひろき、おふろそうじ、いっしょにやってみようか」
 と、おかあさんにいわれたひろきくん。何度か手伝ううちに、ひとりでふろ掃除ができるようになります。
 すると今度はお父さんから「ひろきが洗ったおふろはぴかぴかで気持ちいいね」とほめられます。ひろきが得意げになっていると見るや、お母さんが畳みかけます。
 「ひとりできちんとできるようになったし、今日からはひろきのお仕事にしましょうか」
「やったあ」と喜ぶひろき。
 
 
というように各題材の簡単なあらすじがあります。見た感じは小学生でやっても不思議ではないようなものばかりです。ところが、この作者はこの題材には非常に短く批判します。
 

ひろき、目を覚ませ!オトナにダマされてるぞ!

 

 この文面をみた場所が本屋の立ち読みスペースだったので、笑いをこらえるのに必死でした。他にも面白い批判が多く、電車の中で読むには不意打ちのツッコミに注意しなければならないレベルです。

 

 同時に、これまで自分が道徳の授業で読んだ資料の危うさにも気づかされます。やっぱり道徳の教材は論理的に筋が通っていない点が多く、その点を感情論でごまかそうとしている感が否めないんです。その詭弁をうまくついた解説は、痛快であるのと同時に非常に感心させられます。

 

 本書は、一概に教材の批判ばかりを行っているわけでななく良作な題材は第4章で当に評価しています。長いので引用はしませんが、教育出版の6年の教材には野口英世に関する題材が載っていますが、この教材は野口英世の「ダメなところ」を載せるというアプローチをしました。これに関しては良作であると評価し、最後にこのように締めくくっています。

 

人間のダメなところを隠してはいけません。ダメなところもおもしろいじゃないか、と受け入れる心を持たない人には、人間を理解することはできません。                  本書P82より引用

 

先程のひろきくんの話とは打って変わって真面目な解説だと思われますが、「核心をつく」という根本的な点は変わっていないのであると、本書を読んで感じさせられます。

 

・道徳の根本的な問題にまで触れる

 

 1、2章で道徳の歴史的変遷や副読本の概略を説明し、面白く、テンポの良い3、4、5章で読者を十分にひきつけてから、この本の本題に入ります。

 

 まずは道徳副読本に対する批判。「3章で散々したんじゃないの?」というツッコミが飛んできそうですが、3章のように、ピックアップしたものではなく、全体的に共通する点の批判を行っています。

 

 次いで大人が勉強しなくなる仕組みと、命の大切さの仕組みの解説を行います。この辺りは、かなり真面目な話ですが、作者のそれを感じさせない書き口で、まるで実際に話を聞いているかのように自然に頭に入ってきます。命の大切さの仕組みの解説では、子供に「なぜ人を殺してはいけないのか」という質問に対して、このように答えると言っています。

 

「きみの質問はそもそもまちがっています。ほとんどのオトナたちは、人を殺してもいいと考えてるのですから」       本書P165より引用

 

 と言い、その後に死刑制度や、交通事故などの具体例を挙げています。最初は呆気にとられますが、明快でとても筋が通っています。話題的にはかなり高度な道徳の議論であるにも関わらず、中学生でも読めると感じるのは具体例の明快さと、難しいと感じさせない的確な表現にあると感じます。これこそが、この作者の魅力であると私は思いますね。

 

・おわりに

 

 私は同作者の「昔はよかった病(新潮文庫)」を持っているのですが、本書の7、8章とスタイルは似ています。この本が楽しめるなら、パオロ・マッツァリーノの他の書物も楽しめると思います。総じて「読みやすい」という点が最大の魅力であるので、国語の長文に慣れていない中学生が「作者の意図をつかみ取る」練習としても最適なものだと感じます。

 

まだ、パオロ・マッツァリーノは、「反社会学講座ブログ」にて本書と変わらない論調で、主に時事ネタについての議論を展開しています。(http://pmazzarino.blog.fc2.com/)

 

これを読んでから購入を検討しても良いでしょう。